先に確かめたい人へ
- 法人設立の人数合わせとして、友人や親族に「名前だけ」を頼まれて迷っている人
- 人数を満たせず、名義を借りる方法しかないのかと考え始めている設立準備中の人
- 自分の名前がいつのまにか法人の役員や社員として使われていないか不安な人
「名前だけ貸してくれればいい」「迷惑はかけないから」。法人設立の準備が進むと、こうした一言で役員や社員の欄に名前を並べる話が持ち込まれることがあります。名義貸しという言葉は、法律の条文に出てくる用語ではなく、実際の事情によって問題になる法律も変わります。違法かどうかを一言で答えられないからこそ、どこに何の責任が残るのかを分けて見る必要があります。
この記事は、法人設立で名義貸しが話題になる場面を、役員・社員・口座や許認可の3つに分けて全体像を示すカテゴリー記事です。法人格ごとに必要な人数や手続きの形が違うので、人数が足りないという悩みは、名義を借りる方向ではなく、法人格の選び方を見直す方向で解きほぐします。名義を使う具体的な抜け道は書きません。個別の事情は弁護士や司法書士にご相談ください。
01名義貸しとは何か|法人設立で起きる3つの場面

名義貸しは、実際に動く人とは別の人の名前を、書類や登記の上で使わせることを指す日常語です。法人設立の現場では、大きく三つの場面で現れます。一つめは取締役や理事といった役員の欄、二つめは発起人・出資者・社員といった設立に加わる人の欄、三つめは法人ができたあとの口座や許認可の名義です。同じ言葉でも、問われる法律と責任が違うので、最初に場面を見分けることが出発点になります。

山梨県司法書士会のQ&Aは、名前だけの取締役を頼まれたという相談に対して、対外的には名義上の役員かどうかが分からず、法的な責任が問題になりうると説明しています。本人にとって「名前だけ」でも、取引先や債権者から見れば役員のひとりです。法人設立の書類に名前が載ることは、内輪の約束とは別に、外の世界へ向けた表示になります。
名義貸しを頼む側にも、頼まれる側にも、悪意があるとは限りません。人数が足りない、手続きを早く進めたい、親しい人なら安心という事情が重なった結果であることが多いのです。それでも、法人設立の手続きは「誰が実際にその役割を担うのか」を前提に組み立てられています。前提と実態がずれたままの法人格は、あとから困る場面が必ず出てきます。
役員の欄の個別の論点は法人設立で名前を貸す前に|役員の職務と責任、社員や出資者の欄は名義だけの社員・出資者を避ける|実態に合う法人設立で掘り下げます。この記事では、それぞれの入口と、全体のつながりを確かめます。
注意名義貸しが「違法かどうか」は、法人格・名義を使う目的・実際の行為によって変わります。この記事は一般的な情報であり、個別の事案についての法的助言ではありません。
出典名前だけの取締役になると問題がありますか(山梨県司法書士会・確認日 2026年10月12日)
02名義貸しは違法なのか|刑法157条と「虚偽の申立て」の考え方

「名義貸し 違法」で検索する人が最初に知りたいのは、名前を貸すだけで犯罪になるのかという点でしょう。結論から言えば、名前を使わせる行為そのものを一律に禁じる条文が法人設立の法律にあるわけではありません。ただし、実態と異なる内容を登記などに載せる場面では、別の条文が関わってきます。
公務員に対し虚偽の申立てをして、登記簿、戸籍簿その他の権利若しくは義務に関する公正証書の原本に不実の記載をさせ、又は権利若しくは義務に関する公正証書の原本として用いられる電磁的記録に不実の記録をさせた者は、五年以下の拘禁刑又は五十万円以下の罰金に処する。
この条文は、登記簿に事実と異なることを記載させる行為を対象にしています。法人設立の登記は法務局の登記官に申請するので、申請の内容が実態とかけ離れていれば、この条文が問題になる余地があります。どの行為が実際に当てはまるかは、事実関係と裁判所の判断によるため、記事だけで線引きはできません。
一方で、役員に就任した本人が「実際には何もしないつもりだった」と考えていても、就任の承諾をして登記されれば、会社法上は役員です。違法かどうかの前に、民事上の責任が生じるかどうかが現実の争点になります。この点は次の節で、条文に沿って確かめます。
会社法第429条第2項は、取締役が行った虚偽の登記について、注意を怠らなかったことを証明しない限り、第三者に対する損害賠償責任を負う場合があると定めています。一般法人法第117条にも、役員等の第三者に対する責任の規定があります。「名前だけだから関係ない」という整理が通りにくいのは、法人格を取得する手続きが外部の信頼を前提にしているからです。
注意法人設立の登記に不実の記載をさせないことは、頼む側にも引き受ける側にも共通する大前提です。条文の当てはめは弁護士に相談してください。
出典刑法|e-Gov法令検索(法務省・デジタル庁・確認日 2026-10-23)
03名前だけの役員にも職務と責任が残る|取締役・理事・監事

役員の欄に名前を載せるとき、本人が負うのは「名誉職」ではなく、法律上の役割です。会社法第330条は、株式会社と役員の関係を委任に関する規定に従うものとし、第355条は、取締役に法令・定款・株主総会の決議を守って会社のため忠実に職務を行うことを求めています。名前だけという約束は、この法律上の位置づけを書き換えません。
| 立場 | 職務の根拠 | 会社への責任 | 第三者への責任 |
|---|---|---|---|
| 株式会社の取締役 | 会社法 第330条・第355条 | 第423条 任務を怠ったとき | 第429条 悪意または重大な過失があったとき |
| 一般社団法人の理事 | 一般法人法 第64条・第83条 | 第111条 任務を怠ったとき | 第117条 悪意または重大な過失があったとき |
どちらの法人格でも、役員は会社や法人に対して任務を怠ったときの損害賠償責任を負い、職務を行うについて悪意または重大な過失があれば、第三者に対しても責任を負いうる、という二層の構造になっています。法人格が異なっても、この骨組みはよく似ています。非営利の一般社団法人だから軽い、ということにはなりません。
責任が必ず生じると断定することも、逆に生じないと断定することもできません。任務を怠ったのか、損害との関係はどうか、悪意または重大な過失があったのか。それぞれの事実を一つずつ確かめて判断されます。判断の材料になるのは、本人が何を知り、何を確認し、何を求めていたかという記録です。名前だけという約束は、その材料としてむしろ不利に働くことがあります。
役員が辞めたい場合の手続きにも注意が必要です。会社法第915条は、登記事項に変更が生じたときは2週間以内に本店の所在地で変更の登記をすると定めています。辞任の意思を伝えても、必要な後任の選任や登記の手続きが済むまでは、外から見た状態が変わらないことがあります。詳しい考え方は法人設立で名前を貸す前に|役員の職務と責任にまとめています。
一般社団法人やNPO法人の役員も同じです。名義だけの理事・監事を置いて人数を整えた法人は、あとから理事会の議事や会計の確認が滞り、実際に運営を担う人に負担が集中しがちです。法人格を取得する手続きは、運営を続ける力があるかどうかも含めて組み立てる必要があります。
出典会社法|e-Gov法令検索(デジタル庁 e-Gov・確認日 2026年10月11日)
04名義だけの社員・出資者・発起人で人数を満たす問題

法人設立で名義貸しが起きやすいのは、人数の要件があるときです。法務省のQ&Aによると、一般社団法人は設立に当たって2人以上の社員が必要です。NPO法人は社員10人以上が求められます。こうした人数は、名前を並べればそれで足りるわけではなく、実際に社員としての権利と義務を引き受ける人を想定しています。
株式会社や合同会社は、法律上は1人でも設立できる法人格です。人数が足りないからと他人の名前を借りる必要は、そもそもありません。「人数がそろわない」と感じたとき、足りないのは人数ではなく、法人格の選び方かもしれません。社員が1人でよい合同会社、2人から始められる一般社団法人など、人数の条件は法人格ごとにまったく違います。
出資者についても、実際に払い込む人と名義人が違うと、株主が誰なのかをめぐる問題が後から表面化します。名義だけの株主を置くと、相続や譲渡の場面で、名義人側から権利を主張されたり、税務上の整理が必要になったりします。設立時の手続きを急ぐあまり、法人格を取得した後の整理の負担を先送りにしないことが大切です。
社員・出資者・発起人の詳しい整理は名義だけの社員・出資者を避ける|実態に合う法人設立、人数の数え方そのものは法人設立の人数をどう数えるか|社員・理事・監事の兼任、少人数で選べる法人格は1人・2人で選べる法人格|設立人数と運営人数の違いで扱っています。
兼任ができる法人格もあります。社員が理事を兼ねる一般社団法人のように、同じ人が複数の役割を引き受けることで、実際に動ける少人数の体制を法律の範囲で組むことはできます。名義を借りる前に、まず兼任の可否と運営の実態を確かめてください。人数の悩みは、法人設立 人数の分類でも整理しています。
出典一般社団法人及び一般財団法人制度Q&A(法務省・確認日 2026年10月11日)
05定款認証と実質的支配者の申告|名義と実態のずれが見られる場所

株式会社、一般社団法人、一般財団法人を設立するときは、定款について公証人の認証を受けます。日本公証人連合会の案内は、認証の目的として、定款や法人格の存立をめぐる紛争を予防すること、不正な起業・会社設立を抑止すること、マネー・ロンダリング対策として実質的支配者を把握することを挙げています。
同じ案内によると、2018年11月30日から、株式会社・一般社団法人・一般財団法人の定款認証の嘱託人は、法人の成立時に実質的支配者となるべき者の氏名、住居、生年月日などと、その者が暴力団員や国際テロリストに当たるかどうかを公証人に申告します。この申告は、実際にその法人を支配する人が誰かを確かめるための手続きです。

合同会社は定款の公証人認証が不要で、NPO法人は所轄庁の認証を受ける別の流れです。つまり、この申告の場面で名義と実態の違いが問われるかどうかは、法人格によって違います。認証のない法人格のほうが確認が緩いと考えるのは早計で、登記後の口座開設や取引先の確認など、別の場面で実態が確かめられます。
法務省の実質的支配者リスト制度のQ&Aには、事業経営を実質的に支配する意思や能力がないことが明らかな場合の例として、名義上の保有者にすぎず、他に出資金の拠出者がいて議決権の決定権がない場合が想定されると書かれています。名義と実態を分けて見るという考え方が、制度の側にも組み込まれていることが分かります。詳しくは法務省のQ&Aで確認できます。
注意申告の内容を事実と違う形で整える方法は、ここでは扱いません。申告書の書き方は、公証役場で確認してください。
出典9-4 定款認証 | 日本公証人連合会(日本公証人連合会・確認日 2026年10月12日)
06法人口座と許認可の名義は別の法律で問われる

法人ができたあとの名義貸しは、設立の法律とは別の法律で問題になります。代表的なのが預貯金口座です。高岡信用金庫の令和8年7月のお知らせは、犯罪収益移転防止法で預貯金通帳やキャッシュカードの譲渡・売買が処罰の対象になると案内し、罰則を「3年以下の懲役もしくは500万円以下の罰金、またはその両方」と記しています。
同じ案内は、口座の譲渡・売買が発覚した場合、持っている口座がすべて利用停止になるだけでなく、すべての金融機関で口座開設ができなくなる不利益を受ける可能性があると注意しています。法人の代表者が個人として口座を渡した場合も、本人の信用に響きます。法人設立の手続きが無事に終わったとしても、口座の管理は別の責任として残ります。
許認可を受ける事業では、名義の貸し借りが業法で禁じられていることがあります。たとえば宅地建物取引業では、業者が名義を他人に貸して営業させることが法律で禁じられていると、業界団体が案内しています。許認可の対象となる事業を始めるときは、法人格の手続きと事業の許認可の手続きを分けて、それぞれの名義が実態と合っているかを確かめます。
事業の許認可は所管官庁や都道府県ごとに要件が違います。人材派遣、建設、古物、宅建、医療、福祉など、分野ごとに名義と実態の見られ方が異なるため、法人設立の準備と並行して所管の窓口に相談しておくと、人数や事務所の取り決めで無理をしなくて済みます。許認可の手続きそのものの詳しい説明は、姉妹サイトの担当テーマです。
口座や許認可の名義は、法人設立の時点で整えておくべき「実態」の一部です。名前を貸す側には、使われる目的が分からない状態で応じない慎重さが求められます。使われ方が分からない名義は、あとから責任を問われやすい名義です。
出典口座の譲渡・売買は犯罪です(令和8年7月のお知らせ)|高岡信用金庫(高岡信用金庫・確認日 2026-10-23)
07頼まれたとき・すでに使われていたときの確認の順番

もし法人設立のために名前を貸してほしいと頼まれたら、まず「どの欄に、どの肩書きで載るのか」を書面で確認します。取締役なのか、理事なのか、社員なのか、連絡担当なのかで、背負う責任はまったく違います。肩書きが曖昧な書面に署名や押印をしないことが、最初の防御線です。

すでに自分の名前が使われているかもしれないと感じたら、登記簿に載っている内容を法務局で確認できます。法務局の案内に従って登記事項証明書を取得すれば、いつ、どの肩書きで登記されているかが分かります。そのうえで、承諾した経緯や渡した書類をまとめておくと、専門家に相談するときの材料になります。
「名前を外してほしい」と相手に伝えるだけでは、登記の状態は変わりません。役員を辞める場合は、辞任の意思表示と必要な後任の選任、変更の登記が関わります。自分で新しい書類に署名し直す前に、独立した弁護士・司法書士に事情を伝えて、手続きの順序と責任の整理を相談してください。
頼む側の立場の人は、引き受けてくれる人に、事業の内容、報酬の有無、会議の頻度、辞めるときの手続きを具体的に伝えます。説明が不十分なままの承諾は、あとで信頼関係を壊します。協力を求めるなら、名義ではなく、実際に動いてもらう形で依頼するのが筋です。
出典登記―商業・法人登記―(法務省・確認日 2026年10月12日)
08まとめ|人数が足りないときは法人格の選び方を見直す

法人設立の名義貸しは、役員の欄、設立に加わる人の欄、口座や許認可という三つの場面で問われる法律と責任が異なります。刑法には登記簿に不実の記載をさせる行為を対象とする条文があり、会社法と一般法人法には役員の会社・第三者への責任の規定があります。名前だけという約束は、これらの規定を打ち消しません。
- どの法人格のどの欄に載るのかを、書面で確かめる
- 実際にその役割を担う人を、名前で挙げられるか確認する
- 人数が足りないなら、名義を借りずに法人格を選び直す
- 口座や許認可の名義も、実態に合わせて別に確かめる
人数が足りないと感じたときは、名義を借りる前に、法人格の選択肢を見直すのが現実的です。一般社団法人は社員2人以上ですが、株式会社や合同会社は1人で法人設立ができます。法人格ごとの人数や手続きの違いは、法人設立 種類の分類で一覧にしています。
この記事の内容は、2026年10月23日に確認した刑法、会社法、一般法人法と、公証人・金融機関・業界団体の公開情報にもとづく一般的な整理です。制度は改正されることがあるため、法人設立の手続きに入る前に、必ず所管の窓口や弁護士・司法書士・行政書士に最新の扱いを確認してください。
名前を貸してほしいと頼まれたときも、頼もうと考えているときも、まず「実際にその役割を担う人は誰か」を紙に書き出してみてください。書けない欄が残るなら、そこが見直しの出発点です。法人格の選び方や人数の数え方を整理してから、改めて手続きに進みましょう。
出典一般社団法人及び一般財団法人に関する法律|e-Gov法令検索(デジタル庁 e-Gov・確認日 2026年10月11日)
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